当初の連協運動概説



図1.首都圏中央連絡道路(圏央道)と横浜環状道路

    

  連協は平成4年以降、3件の住民訴訟と1件の民事訴訟を提訴して行政相手の裁判を
 闘ってきた(表1)。これらはいずれも住民の訴えが棄却されたが、それは裁判所が
 最初から行政を敗訴にしないという結論をもっていて、それに沿って審理を進める
 という形の一種の儀式を行っているに過ぎないからである。なかでも道路予定地不
 当表示に関する民事訴訟は、証拠に基づく限り住民勝訴以外あり得ないものであっ
 たが、裁判所は信じられないような不公正な審理によって行政敗訴を回避した。
 道路予定地不当表示問題は、行政が企業と談合して住民を騙して宅地を販売すると
 いう民主主義を根底から否定する不法行為であり、裁判が公正に行われる限り行政
 敗訴以外の結論はあり得ず、当然横浜環状南線は撤回以外ないものであった。とこ
 ろが裁判所は行政のこの苦境を救うために事実の歪曲や捏造のほか、証拠の取り違
 えや重要証拠の無視など、凡そ信じられないような形で住民の主張を退けて行政を
 擁護した。

 以下この裁判を取り上げてわが国の行政相手の裁判の驚くべき実態を明かにする。


     1 高速横浜環状南線関係訴訟一覧

    

 

住民訴訟
被  告
提訴日(原告数)
提 訴 理 由
進行状況
年 月 日
平成4年行ウ第25号(市ウソパンフ配布)高秀横浜市長
立神道路局長
渡辺担当部長
平成4年9月18日横浜地裁(455名)実際は地表式の釜利谷ジャンクションから約400メートル区間を地下式と偽って表示したパンフ約60万部各戸配布 判決:棄却(平成8年10月28日)

平成4年行ウ第26号(県ウソパンフ配布)長洲神奈川県知事三由都市部長樋貝都計課長

平成4年9月18日横浜地裁(445名)上記横浜市作成の偽りの道路平面図をそのまま“公聴会のお知らせ”に掲載して128万部各戸配布

判決:棄却(平成8年10月28日)

平成5年行ウ第38号(道路用地不当価格)高秀横浜市長平成10年行コ第89号高秀横浜市長 平成5年9月1日横浜地裁(1029名)市はある業者から道路用地を9千円で購入しながら他の業者から17万円/uで購入したのは公金の不当支出
                 ↓平成10年51日東京高裁控訴        (793名)             ↓平成11年3月17日最高裁上告(5名)             ↓平成11年10月8日最高裁判決
判決:棄却(平成10年4月20日)判決:棄却(平成11年2月24日)最高裁審理(第2小法廷)判決:棄却
平成10年(ワ)第416号道路予定地不当表示横浜市三井不動産大林不動産他3社 平成10年2月17日横浜地裁(38名)横浜市と開発業者が共謀して実際は高速道路用地として確保した道路予定地を一般道路用地と偽って宅地販売した共同不法行為に対する賠償請求 判決:棄却(平成12年12月21日)

平成13年(ネ)410号

↓平成12年12月26日東京高裁控訴(38名)

判決:棄却(平成13年12月26日)
平成14年(ネオ)第24号平成14年(ネ受)第20号             ↓平成14年1月7日最高裁上告
         (4名)           ↓平成14年5月31日上告棄却
           ↓平成14年6月25日再審請求中
最高裁審理(第二小法廷)


                           全て棄却判決


2.なぜ道路予定地不当表示裁判を提訴したか

 昭和40年代後半から50年代にかけて横浜市戸塚区(現在栄区)上郷地区に三井不動
産、大林不動産他2社が数千戸に上る宅地分譲計画を進めた。この一帯は首都圏に残
された数少ない緑豊かな自然に恵まれた地域であり、きれいな空気と静かな環境を求
めて多くの住民がこの分譲地の見学に訪れた。
 ところが、庄戸地区と湘南桂台地区において宅地の真中を縦断して道路予定地が確
保されていたため(図2)、住民らはもしここに高速道路が作られるのであれば、折角
の環境が台無しになるので、開発業者にどのような道路ができるのか確かめた。これ
に対して業者は、「これは皆さんの生活道路としての一般街路で、通勤や買い物が便
利になりますよ」と答えた。その上で、予定地の立看板を指差して、これにもはっき
り書いてあると付け加えた。実際、立看板には横浜市と開発業者連名で「この用地は
都市計画道路(幹線街路)予定地です」と表示されていた。(図3)。


 図2. 庄戸地区及び湘南桂台地区道路予定地


 

 幹線街路というのは高速道路でない一般道路のことである。住民は、横浜市と
大企業が連名でここは高速道用地ではなく一般道路用地であると立看板に表示して
一般に告知しているのを見て、すっかりこれを信じ、安心してここを終の棲家として
宅地を購入する決断をした。
       

  図3.道路予定地の虚偽不当表示立看板

   
   

 湘南桂台地区道路予定地の立看板       庄戸地区道路予定地の立看


 ところが宅地が完売した後、1988年(昭和63年)になって横浜市はここに6車線の
高速道路である横浜環状道路南線を建設する計画を発表した。道路予定地は高速道路
予定地ではなく一般道路予定地と聞かされそれを信じ込んでいた住民はこれを寝耳に
水のように驚いた。そこで横浜市に対して、自分達は一般道路予定地と信じて土地を
買ったのであって高速道路ができるのであれば宅地は買わなかったのであり、これは
虚偽の不当表示で住民を騙したものとして強く抗議した。これに対して横浜市は、こ
の道路予定地はもともと高速横浜小田原道路用地として確保したものであるから、こ
こに高速道路を作るのは当然であるとして住民の抗議を斥けた。
 そこで住民が予定地の立看板の写真(図3)を提示して、横浜市と開発業者連名でこ
こは幹線街路予定地と表示して住民に告知して宅地を販売したのではないかと追及、
特に平成2年8月の質問集会でこのことを徹底して質問したところ、高速道路予定地
というそれまでの主張を180度転換して、予定地は立看板の表示のとおり幹線街路
用地だったと主張しはじめた。その理由として、横浜市は昭和43年に神奈川道路協
議会(建設省、神奈川県、横浜市等で構成)が高速横浜小田原線の構想を提案し、その
ための用地として本件道路予定地を確保したが、昭和46年から48年にかけて横浜
小田原線の高速道路計画が具体化する見込みがなくなり、一般街路に変わったので立
看板を立てた時点では一般街路用地になっていたからであると主張した。
 これに対して住民らは、情報公開等を通じて入手した数多くの資料を基に、本件道
路予定地は高速横浜小田原線用地として横浜市が開発業者に確保させていたものであ
ること、そして立て看板の「幹線街路予定地」というのは業者の宅地販売の便宜のた
めに横浜市と開発業者が談合して決めた虚偽の不当表示であることを明らかにした。
このように住民を騙して道路用地を確保して宅地販売したのは民主主義に反する不法
行為であるとして、横浜市と開発業者を被告として平成10年2月に横浜地裁に提訴
した。

3.行政相手の裁判の驚くべき実態
  本件裁判の12回にわたる審理を通じて住民らは70通以上の証拠を提出し、これら
を基に立て看板の「都市計画道路(幹線街路)予定地」という記載は虚偽の不当表示
であることを文句のない形で証明した。審理の詳細は後述の小冊子に譲り、ここでは
典型的な不公正審理の一例を取り上げて行政一辺倒の裁判の実態を示すこととする。
  図4と5はそれぞれ昭和45年と昭和51年発行の「横浜国際港都建設計画に係る市街
化区域と市街化調整区域の決定(または変更)」に関する神奈川県知事による都市計画
決定(または変更)関連文書である。これらの文書には横浜国際港都建設計画に関連し
た各種計画が記載されている。その中の「交通施設の整備の方針」の中に「金沢区長
浜付近を基点とする東京湾岸路道と東名高速道路を結ぶ高速道路の建設を促進する」
と明記されている。(図6)ここでいう高速道路とは横浜小田原線のことである。
 このように昭和45年と昭和51年に発行された神奈川県知事の都市計画関連文書の
両方共に、高速横浜小田原道路の建設促進が謳われていることは、昭和46年から48
年にかけて横浜小田原線の高速道路計画が具体化する見込みがなくなって消滅したと
いう横浜市の主張を完全に否定し、立看板の「幹線街路」という表示が明らかに虚偽
であることを示している。

図4. 神奈川県知事の都市計画関連文書(昭和45年発行)

     

 

 ところが横浜市は高速道路計画は取り止めて幹線街路に変わったと主張しながら、それを
裏付ける行政文書の提出を求めてもそれを出すことができず、ただそれを言葉で繰り返す
だけであった。実際、横浜市では高速道路計画を取り止めて幹線街路に変更する行政手続
きは一切なされなかったのであり、このことは当時の担当が市側の証人として出廷して証言
したのである。

 図5. 神奈川県知事の都市計画決定関連文書 (昭和51年発行)

 

 


 それではなぜ横浜市は、道路予定地は、高速ではなく一般道路予定地を主張し、立
看板を設置したのか。それは平成2年8月の質問集会での住民らの厳しい追及の前に
道路局担当者が遂に真実を語らざるを得なくなり、そこで真相が明らかになった。
 それによると、宅地開発時に、横浜市が開発業者らに対して高速横浜小田原線用地
の確保を求めたのに対して、業者らが高速道路という言葉を使うことに強く反対した
ため、市と業者らが協議(談合)して、住民には高速道路ということを隠して一般道
路ということにして宅地販売することにし、そのことを表示した立看板を道路予定地
に設置したというものである。

図6.都市計画決定の具体策中の道路整備計画


   



  これは行政と大企業が談合して虚偽の不当表示で住民を騙して宅地販売したという
前代未聞の出来事であり、最近わが国に蔓延している牛肉などの不当表示スキャンダ
ルのさきがけをなすものである。以上の事実が裁判の審理を通じて明らかになった以
上、公正な判断による限り横浜市敗訴の判決以外にあり得ないはずであるが、横浜地
裁高柳輝雄裁判長は上述の県知事発行の都市計画決定関連文書を無視し、質問集会で
の市道路局担当者の発言を証拠として不採用とすることによって住民敗訴の判決を下
したのである。このように行政を敗訴にしないだけの非常識で不公正な判決は当然上
級審で正されるものと期待したが、高裁、最高裁共にただ下級審の判決を追認しただ
けの良心のかけらも感ぜられないものであった。
 以上のように一審から最高裁に至る本件の審理は考えられないほど不公正なもので
あるが、これがわが国の行政相手の裁判の実態なのである。いま国民的課題として司法
改革が声高く叫ばれているが、行政相手の裁判の公正化を実現することは早急にやるべ
き極めて重要な問題である。そのためにはこのような裁判の実態を広く人々に周知させる
ことが必要であり、連協は本件裁判に関するA4版小冊子を作成した(図7)。これは一審か
ら最高裁に至る本件裁判の審理内容を詳細に、しかも分かり易く対話形式にまとめたもの
である

図7.小冊子

             


 小冊子「道路予定地の不当表示に関する架空討論会−行政相手の裁判の実態を斬る」 
  は希望者に無料進呈します。
                              申込先:〒2470022
                              横浜市栄区庄戸 3-13-23
                                      永田 親義
                             TEL&FAX 045-894-5336
追 記

 平成2年8月の質問集会で横浜市道路局の担当者が告白したように、道路予定地の立
看板に高速道路用地とせず、幹線街路(一般道路)予定地と虚偽の表示をしたのは、
開発業者が高速道路と表示すると宅地が売れないからとして強く反対したためである。
 このことは質問集会翌日、各新聞が一斉に報道したのでそれらの記事を追加する。

  

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